前編はコチラ!
夜になって少々風が強くなり、隣人の非自立式テントの人が苦労していた様子を耳で感じました。また、3時に起床し朝食の支度をしていると、周囲もトイレに行ったりバーナーに火が着いたりと、同じように活動している様子。音だけでもいろいろわかるものです。自然の中にいることで、感覚も研ぎ澄まされているのかも?
さて、撤収を済ませ目指していた4時も過ぎたので、行動開始。白馬岳の先から朝日が覗きます。今日の天気は期待できそうですが、炎天下でのキレット越えに不安もよぎります。
とはいえ、朝日を浴びながら雲海に囲まれた稜線を歩くのはとても清々しいものです。まさに縦走登山の醍醐味ここにあり。
しばらく進むと大雪渓と小雪渓が見えてきました。ルートも確認できます。いつかはコチラ側からも登ってみたくなりますね。
杓子岳を越えて2時間ほどで白馬鑓ヶ岳に到着しました。これにて白馬三山制覇です。空も夏山らしい色に。7時近くにもなり、じわじわ気温も上がってきました。
延々と左側から陽を浴び続けているためか、やたらと左腕と左頬が熱くなってきました。
鑓ヶ岳を下って、天狗山荘に到着。不帰キレットに備え、少し長めの休憩をとることにしました。天狗山荘は外来食堂のメニューが充実しています。うどんにカレーライス、牛丼・中華丼、そうめん、おでんなどなど。宿泊者に振る舞われる「天狗鍋」も人気です。各々カレーうどんや味噌汁などを注文しました。
補給も完了。再び縦走路を進みます。それにしても美しい景色が続きます。縦走路はきつい傾斜もないので歩きやすく、景色もずっと開けていて飽きることがありません。
不帰キレット前の天狗の大下りにさしかかりました。この時点での標高は約2,700mで次の山頂の唐松岳とほぼ同じ高さですが、この大下りで約300m近く標高を下げることになります。傾斜もかなり急でクサリ場などもあるため、慎重に下りる必要がありそうです。
途中、前を行く登山者が休憩をとろうと荷を下ろした途端、バックパックが転げ落ちはじめました。慌てて追いかけるもルートでもなく危険なので急げません。バックパックも止まる気配もなく、無情にも見えなくなっていきました。
傾斜のあるところで荷を下ろすときは気をつけなければいけませんね。我々は天狗山荘でしっかり休憩をとっていたので、休まず下り続けることにしました。途中、バックパックを追いかけていた登山者が、無事に回収できたことを確認。一安心しました。
1時間ほど下ったでしょうか。不帰キレットに着きました。いよいよ、不帰ノ嶮(かえらずのけん)に取りつくときがきました。このために購入したヘルメットを装着。緊張を隠せませんね。
お昼近くになって陽も上がり、ガスも上がってきました。それにしても険しい道が見てとれます。というか、道と呼べるのでしょうか。ちょうど唐松岳側から不帰ノ嶮を下ってきた50代位の男3名のパーティーに様子を聞いてみました。すると、足を置く場もしっかりしているし、まったく問題なかったとのこと。年輩の女性でも問題なくクリアできたということで、安心すると同時に、ビビっていられないなと感化させられました。
不帰ノ嶮には一峰と二峰があり、核心部は二峰への登りだとか。写真中央あたりが一峰でその先が二峰なのでしょうか。ほぼ直角にそびえる岩場に圧倒されます。すれ違うポイントもないので、下ってくる登山者を待って進みます。
先行する仲間の行く道を確認しながら、同様にたどっていきます。高度感もあり、落ちたら即死確実の場所が続きます。いくつものクサリがありますが、なるべくクサリに頼らないよう、足場を確認しながら慎重に進み一峰にたどり着きます。
安堵感よりも、天狗の大下りからの疲労感で体力的にキツくなってきました。呼吸を整え二峰へ向かいます。
ピークに達し、二峰をクリアしたと思ったらまだ先にも急な岩場が続いています。どうやら二峰には北峰と南峰とピークが2つあったようで、体力的にも限界がきていた状態に追い打ちをかけられ精神的にも疲れきってしまいました。
二峰南峰に着いて荷を下ろし、体を休めます。午後イチの時間帯で暑さもピーク。さすがにグッタリときていますね。
何にしても不帰ノ嶮をクリア。しかし、唐松岳に着いた頃あたりはガスに包まれ、何の眺望も得られませんでした。疲労もピークで達成感を楽しむ余裕もありませんでした。さらに追い打ちをかけるような唐松山荘のテント場。山荘よりかなり下にテント場が設けられており、トイレや買い物の度に登り下りしなければなりません。
山荘に近いスペースはすでに埋まっており、5分ほど下った場所でようやく設営ができました。トイレや買い物のために上がるのは1回だけにしたかったのですが、食後のトイレでもう1回登るハメに……。今日一日の疲れも相まって、ぐったりと眠りこけました。
さて、最終日。五竜岳へ向かいます。前日はガスに包まれていてわかりませんでしたが、唐松山荘の目の前には剱岳の見事な景色が広がっていました。本日の天気も期待できそうです。
歩きはじめると、早速出てきた牛首と呼ばれる難所。昨日の不帰ノ嶮での緊張感が甦ります。
しかし天気は良好。今日のご褒美は期待できそうです。
8時前。五竜山荘に到着しました。何張りか、テントも残っています。五竜岳はここから30分ほど。テントごと荷物を置いて山頂に向かっているのでしょう。
多くの登山客で賑わっています。我々もメインの荷物を置かせてもらって、サコッシュとペットボトルを持って山頂を目指すことにしました。
大変なのは不帰ノ嶮だけと思っていたので油断していました。五竜岳の山頂までもなかなか険しい道が続きます。とはいえ、身軽なこの状態。アスレチック気分で楽しく登れました。
なんなく五竜岳山頂に到着。今回の縦走登山における最終目標、2座目の百名山制覇です。ご褒美の眺望も素晴らしいです。
先に見えるは同じく百名山の鹿島槍ヶ岳。もっと長い休みがとれるのであれば、このまま先へと縦走を続けていられるのですが、そういうわけにもいきません。
また、五竜岳から鹿島槍ヶ岳までは八峰キレットと呼ばれるさらなる難所があります。難所については、今回はお腹いっぱいです。またいつか、目指すこととします。
さて、あとはただ下るのみ。下界はくもりでしょうか。五竜山荘で荷物を回収。食事もさせてもらい、五竜山荘名物である「山が好き酒が好き」Tシャツを購入。よき記念となりました。
大遠見山、小遠見山と続く遠見尾根を延々下り、白馬五竜テレキャビンへ。短いようで長かった縦走登山も終わり。なかなかハードな2泊3日でしたが、概ね天気にも恵まれ、なにより誰にもケガもなく、無事に帰れたことに一安心。不帰ノ嶮のような難しいルートを行くときは、悪天候では大変危険ですから、そういう意味でも恵まれました。
また、毎度下山時には寂しさとともに、日常の便利な生活に戻れることに嬉しくもなります。蛇口をひねればお湯が出たり、スイッチを押せば室温を調節できたりと、山にいると考えられません。あたり前になっている日常の生活に感謝できるのも、登山の楽しみなのかもしれませんね。
撮影:後藤秀二