宮沢賢治とともに、岩手の風俗や伝承に触れる際にスルーできないのが、柳田國男の「遠野物語」。河童や座敷わらしといった民話を耳にしたことはありますよね。文系登山的には、前回ご案内した種山ヶ原からぜひ足を延ばしたいのが、ここ遠野なのです。
日本の山には、頂に「奥宮」が、その麓に「里宮」があり、そこには“山の神さま”を祀られることが多く、古来の自然崇拝から山岳信仰をいまに伝える同様の霊山が各地にあります。ピークハントの視点だけではそういう意識をして山を見ていないかもしれませんが、かの富士山と浅間神社もその関係のひとつ。
そしてここ遠野を象徴する早池峰(はやちね/はやちねさん)も、かなり古くから信仰の山として崇められてきました。1917mの北上山地最高峰に鎮まるのは瀬織津姫という女神で、早池峰の東西南北それぞれに位置する早池峰神社に鎮まって、いまなお山の入口を護っています。
数々の地域伝承が残る早池峰は、たとえば石上山、六角牛山とあわせて遠野三山と呼ばれるに至る“三姉妹”の物語が伝わっていたり、また、岩手山と姫神山との“三角関係”から土地の成り立ちを説明する伝承があったりと、知的好奇心をかき立てられる山でもあるのです。
こちらは“南麓”遠野市の早池峰神社。ご祭神は瀬織津姫です。ここから北に向かって薬師岳を経て小田越の早池峰登山口に行くコースがありますが、かなりタフな道のりなのでご注意を。
こちらは“西麓”花巻市の早池峰神社。ご祭神はもちろん瀬織津姫です。早池峰の一般的な登山コースである河原坊はここから東に位置しますが、現在は登山道崩落につき通行止めなのでご注意を。
そしてこちらは早池峰の山頂に鎮座する奥宮。頂にはふたつの社があり、ひとつが西麓の奥宮、そしてこの石造りの社が南麓の奥宮にあたるそうです。蛇紋岩に覆われたモナドノックの山でもあり、高山植物は固有のものが見られることで、花の百名山にも選ばれる山。日本のエーデルワイスとも呼ばれる「ハヤチネウスユキソウ」は7~8月が見ごろです。多くのハイカーを魅了する早池峰に、こうした地域の信仰と土地の祈りがあることを知っておくと、これまでとは違った山旅を味わえるでしょう。
ところで、先に紹介した“南麓”の守護、遠野の早池峰神社の隣接地に、旧大出小学校の校舎が残っています。廃校を活用した「遠野早池峰ふるさと学校」という施設で、遠野市における都市・農村交流の拠点施設。東京や愛知のこどもたちも訪れているそうで、ぼくも中を見学させてもらいました。ノスタルジックな気分と、こどもの頃を思い出すワクワクとがない交ぜになる不思議な気分。
機会があれば、ぜひみなさんも立ち寄ってみてください。座敷わらしなる、幸運の兆しに遭遇する可能性もアリ、ですよ。