ストレス社会と言われている現代。
日常から解放され、心がやすらぐ場所に行きたいと思っている方も多いのでは?
でも……皆さんは、そう聞いてどんなところを思い浮かべますか。
例えば、都会を離れ自然に浸ろうと思っても、海やキャンプ場などの行楽地は、行き帰りの移動距離が長かったり車の渋滞で疲れてしまったり、普段あまり運動をしていない方にとっては山もハードルが高い場所だったりしますよね。
そこで、今回のテーマは、意外と皆さんのすぐそばにある“森”について。
「森と未来」代表理事で森林セラピストでもある、小野なぎささんに、森の癒しの効果についてお話を伺ってきました。
小野なぎさ
一般社団法人 森と未来 代表理事
産業カウンセラー/森林セラピスト
2015年10月に一般社団法人「森と未来」を設立し、人と森が共生する社会の実現を目指し、森林セラピー基地の支援、ガイド・セラピストの教育、地域と連携した企業研修の開発、講師などの活動を展開 詳しいプロフィールはコチラ http://fwithf.org/about/nagisa/
ーー小野さんは、人の心と森林の癒し効果に興味を持ったことから勉強をはじめ、それを仕事にされたそうですが、そもそも森林セラピーとは何なのでしょうか?
森へ入ってみたら気持ちがすごくよいなぁと感じた経験はありませんか?
近年、森の持つ身体への癒し効果の研究が進んでおり、各地の森でこころと身体の健康のために森へ入ろう、という取り組みが進んでいます。
都会の環境から少し離れ、森の中で五感を解放してあげるだけで身体はとても楽になります。現在、森林セラピーを受けられる森は全国に62箇所もあり、そこには専門のガイドやセラピストがいるので、その時の体調や気分に合わせて気持ち良く森を歩くことができます。
※「森林セラピー」はNPO法人森林セラピーソサエティの登録商標です。
森の中には様々な種類の植物があり、虫や動物もいます。そんな環境の中で、葉っぱや枝を触り心地を肌で感じたり、目をつぶって普段の生活では耳にしない音や香りを感じたり……
身体を動かすことよりも感覚を使うことに意識を置くことで、見る、聞く、触る、味わう、香るといった五感が研ぎすまされ、身体の緊張が緩み、心からリラックスができるのです。森林セラピストは、人と森がつながるためのお手伝いをさせていただきます。
例えば、森の中で寝そべってみたことってありますか?
試しにシートを敷いてゴロンと寝転んで目を閉じてみると、「小鳥のさえずりって、なんて気持ちいいんだろう」「息をゆっくり吸い込むと、森の香りが身体に入っていく……」など、様々な感覚を得られ、だんだんリラックスしてくると思います。
ーー本当ですね!心が落ち着いてきて都会ではなかなか味わえない感覚に浸れます。
※今回の取材では、東京の新宿から電車で40分の場所にある里山で、小野さんの森林セラピー体験をさせていただきました。
皆さんがリラックスして横になっている間、私たちセラピストはなるべく存在を消すようにしています。
予期せぬことが起こることもある自然の環境下で、より感覚を研ぎ澄ましながら森と対話してほしいと思っています。だから、私たちはあくまで森と参加者の繋ぎ役に徹しています。
ーーどういった方がプログラムに参加されるのでしょうか?
私自身、都会で仕事をしている中で、日本には病気ではないけど健康でもない方って多いんじゃないかなと感じていました。例えば、通勤の電車に乗るだけで朝から疲れている方もいますよね。そして、それは単に自然が足りてないのかな、と。
わたしが森をご案内させていただいた40代の管理職の女性は、やっと会社の休みがとれて参加してくれたのですが、お会いした時はとても疲れている表情でした。そして、森の中に入って横になり目を閉じるとポロポロと涙を流してしまって……
今まで何のためにこんなに急いで頑張ってきたんだろうとおっしゃっていて…子供との時間や自分の時間をもっと大切にしたいといった気づきを得たようです。プログラムが終わった頃には晴れやかな笑顔になっていました。
企業に勤めていると、仕事のプレッシャーや人間関係など様々なストレスを受ける方も多いですよね。そのため、病気の予防、リラクゼーション、ストレス緩和を目的として、全国各地の森で森林セラピーのプログラムを開催しています。
ーー小野さんはいつからこの活動をされているのでしょうか?
私の父親が潜水士で、平日は海で仕事をし、週末は家族と山でキャンプをするような生活をしていました。
また、生まれは調布市深大寺、東京でも緑の多いエリアだったため、昔から、森に入ると気持ちがいいなぁと感じていました。そして、これは何でかな?と思って、学生の頃から心理学やセラピーの勉強をはじめたんです。
そこからですね、健康という切り口で森と関わるようになったのは。新卒で一般企業に就職して、その後、転職して森林を活用した研修の開発に携わり、産業カウンセラーの資格も取得したり、心療内科にてカウンセラーとして勤務したり、前職では「保健農園ホテル フフ山梨」の立ち上げに関わったりと色々な経験を積み重ねてきました。
あとは、24歳の時に持病の股関節症が悪化して1年間歩けない時期があって、その時、ただ緑を見て空気を吸うだけでも何て気持ちがいいんだろう……と感じたことも、今の活動の軸になっています。
そして、2015年10月に一般社団法人「森と未来」を設立しました。
ーー森と未来の目指しているビジョンとは?
森と共に未来を考え、自然と人が共生する社会をつくる。というビジョンを私たちは掲げています。
でも、まずは皆さんに森へ入って五感を解放し、心地よい時間を過ごしていただきたいと思っています。頂上を目指す登山も楽しいのですが、途中で素敵な場所があればそこで目を閉じて、自然の中に溶け込む時間を楽しむのもいいと思うのです。
地方で開催するプログラムでは、地域で採れた旬の食材を使ったセラピー弁当などの食事を用意する場合もあるので、森の中でランチをとるのも楽しいですよね。
森林セラピーは、身体の健康増進を目的にしているので、自分にあった場所やプログラムを通じて、もっと気軽に自然を味わってほしいと思っています。
ーー自然を味わうって意外とハードルが高い印象もありましたが、森なら実は近所にあったりしますよね。最後に、普段あまり自然に触れていない人へ向けてメッセージをお願いします。
森林セラピーは治療ではなく、あくまで自然に触れる機会を提供し、本来自分が持っている感覚を思い出し、森に癒される心地を味わっていただく役割を担っています。
自己啓発をして成長しなきゃ、母親としてもっと子育てを頑張らなきゃ、女性としてもっと綺麗になりたい!など…今、一生懸命頑張っている人も多いと思います。
でも、たまには身近な自然に浸り、ゆっくり力をゆるめることで大きな気づきがあるかもしれません。ぜひ、森との対話を楽しんで下さい。
一般社団法人 森と未来
http://fwithf.org/