体験レポート

ドロミテ山塊のロングトレイルを歩く AV1(Alta Via1)/ イタリア|WORLDTRAILS Vol.003

WOLRDTRAILSは海外のトレイルルートのトレイル記を残していくことで日本から海外に歩く人が1人でも増えたらいいなと思い始まった連載企画。今回は芦塚勇樹さんが2024年の7月に歩いたイタリアの「AV1(Alta Via1)」のトレイル記をご紹介します。

AV1(Alta Via1)とは

アルタ・ビア1(Alta Via 1)は、イタリアのドロミーティ山脈に位置する美しいトレイルで、世界遺産ということもあり、特にハイキングやトレッキング愛好者に人気があります。このトレイルは、約125キロメートル(77マイル)の長さで、標高が高く、壮大な山塊や美しい景観を楽しむことができます。

AV1(Alta Via1)の全行程

今回のトレイルの行程はこちら。

期間:2024年7月6日(土)~11日(木)
累計距離:122km
累計高低差:上昇6,800m、下降7,840m

1日目:Pragser Wildsee Lake – Rifugio Biella-SeekofelhutteとSennes Hutte
2日目:Rifugio Biella-SeekofelhutteとSennes Hutte – Rifugio Fanes
3日目:Rifugio Fanes – Rifugio ScoiattoliとRifugio Averauの間
4日目:Rifugio ScoiattoliとRifugio Averauの間 – Rifugio Passo StaulanzaとRifugio Col dei Baldiの間
5日目:Rifugio Passo StaulanzaとRifugio Col dei Baldiの間 – Rifugio Mario VazzolerとCosta Cinfinの間
6日目:Rifugio Mario VazzolerとCosta Cinfinの間 – Rifugio Sommariva al PramperetとCima De Zita di Mezzoの間
7日目:Rifugio Sommariva al PramperetとCima De Zita di Mezzoの間 – La pissa

トレイル開始!

1日目:Pragser Wildsee Lake – Rifugio Biella-Seekofelhutte&Sennes Hutte

午前中に前泊地点のホテルから移動。AV1のスタート地点であるPragser Wildsee Lakeに友人2人と共に移動し昼過ぎにスタート。

友人は現地に1年間滞在しているため日程にゆとりがあるのですが、私は日程に限りがあるので、最初の2日間のみ行動を共にする予定です。

出発時の天気は晴れであったが、徐々に雲が増えて、後半はガスの中のトレイルに。途中、雪渓も残っていました。

Rifugio Biella-Seekofelhutteから1~2km程度進んだ先にビバークできそうな地点を見つけて、テント泊の準備を開始。近くには他のビバーク者の姿も。そして、夜からは雨模様に。

2日目:Rifugio Biella-Seekofelhutte&Sennes Hutte – Rifugio Fanes

一晩中、強い雨が続き、明け方にようやく止んだのですが、この日は霧の中のトレイル開始となりました。トレイルを開始してしばらくすると、晴れ間が見えたもののすぐに再び大雨。大雨に加えて、同行者は久しぶりのトレイルということもあり、同行者に疲労が見られたため、歩きながら小屋泊へのプラン変更を検討し始めます。その後、天気は小雨になったものの、途中立ち寄った小屋の1つであるRifugio Fanesに空き部屋があったため、急遽宿泊しました。

せっかくなので、山小屋を満喫することにしました。友人のお陰で、ランチにディナーと楽しいひと時を過ごせました。なお、ここで私と同じOOahh Sport (OOFOS)のサンダルを履いた登山者と出会います。その後、何度も顔を合わせる事になり、同じタイミングでゴールすることになるのですが、この時は知る由もありませんでした。

3日目:Rifugio Fanes – Rifugio ScoiattoliとRifugio Averauの間

山小屋での朝食を楽しんだ後に、友人に別れを告げます。友人は2週間以上かけてAV1を堪能しながら歩くとのこと。うらやましいと思いつつ、ここからはソロでのトレイルを開始。

天気が曇りから晴れに変わっていくと、ドロミテらしい圧倒的な山塊があちこちで見られるようになります。また、ドロミテはクライミングの聖地でもあり、至る所でクライミングしている人を見かけます。

そして、AV1のハイライトの1つであるTorre GrandやTofana di Rosezの山塊が見れる場所でビバークしたく、Rifugio ScoiattoliとRifugio Averauの間でテントを張ります。

この地点に着いたのは夜の20時で夕焼け(21時過ぎ)までに何とか間に合いました。日本と違って、ヨーロッパは日の入りぎりぎりまで歩いている方をちらほら見かけます。残念ながら、夕陽が落ちる頃には、お目当ての山塊が雲に包まれましたが、それでも素晴らしい景色の連続で満足した1日となりました。

4日目:Rifugio ScoiattoliとRifugio Averauの間 – Rifugio Passo StaulanzaとRifugio Col dei Baldiの間

この日に歩いた区間は圧倒的な景色の連続でした。しかし時間の関係上、ゆっくりすることはできず、もし次来ることがあれば是非ピンポイントで再訪したい場所となりました。

まずはビバークした場所で朝日を堪能後、Nuvolauの先のルートをしばらく進むと、ヴィア・フェラータ(ワイヤーやはしごなどの固定設備を備えた登攀コース)になり急峻な岩場の降りとなります。しかし、ここを登ってくる人が皆、ヘルメットにハーネス着用で安全確保しており、話を聞くと、危険個所が長いということで、テント泊装備で降ることに不安になったため引き返して迂回することにしました。

この後も、美しい景色を堪能し、小川で身体を拭いたり、顔を洗ったりなど、リフレッシュしながら、先に進み、ビバーク地を探します。あまり良い場所が見つからず、夕日が落ちる直前までビバーク地を探していました。上記の迂回が無ければ、絶景の前でビバークできる場所に辿り着けたので、事前の情報収集不足が悔やまれる結果となりました。

5日目:Rifugio Passo StaulanzaとRifugio Col dei Baldiの間 – Rifugio Mario VazzolerとCosta Cinfinの間

前日のビバーク地点から、急登を登り超えた先で、Lago di Coldaiにたどり着きました。ここでは、たくさんの登山者が泳いでおり、私もリフレッシュしました。

その後はTorre di Coldai、Monte Civettaなどのドロミテらしい圧倒される山塊を眺めながら進みましたが、Rifugio Mario Vazzolerを越えると、森林地帯とザレ場のトラバース等となり、ビバーク地点がなかなか見つからず苦労しました。

6日目:Rifugio Mario VazzolerとCosta Cinfinの間 – Rifugio Sommariva al PramperetとCima De Zita di Mezzoの間

ここまで来ると、もうゴールまで残り少し。ドロミテの壮大な景色が明日で終わる寂しさを感じながら、この日のビバーク地点へ進みます。

今夜のビバーク地点は、花畑が広がっていながら、Cima di PramperやCima de’La Giazaという山塊を見渡せる素晴らしい場所です。ドロミテ最後の夜に美しい景色を堪能することができ、ここまで来れた喜びとこの景色を見せてくれた山に感謝し、眠りにつきました。

7日目:Rifugio Sommariva al PramperetとCima De Zita di Mezzoの間 – La pissa

最終日の朝。朝日とともに壮大な景色を堪能し、帰路に着きます。

ここからはほぼ下り。天気予報では夕方から天候が悪化するとのことで、足早に進みましたが、天候は想定以上にはやく崩れてしまいました。大雨、雷で道に水が溢れてくると思ったら、ゴルフボール大の雹まで降ってくる始末。びしょびしょになりながら、ゴールまで進みます。そして、ようやくゴールの階段を降りて、バス停へ。最終日にヨーロッパアルプスの洗礼を受けたものの、充実した7日間となり、無事にゴールとなりました!

その他の注意点

道標について

基本的にVia1のマークを辿っていきますが、Via6やルート436などと兼用ルートもあり、その場合はVia1のマークがない場所もあるため、地図やGPSでルートを確認することが必要です。特に、登攀装備が必要なヴィアフェラーラに迷い込まないこと。

動物・植物について

日本には生息していない動植物に会えました。マーモットやアイベックス、シャモアなどの他、固有の植物も。バードコール(オーデュボン)により、小鳥が近くまで寄って来てくれ、囀りを奏でてくれたのは癒しになりました。

ビパーク・小屋について

ドロミテは世界遺産でもあり、公にはビバークは禁止です。ただし、日の入り~日の出頃の間にテントを張ること、及び形跡を残さないことを前提に、出来るだけ目立たない場所で自己責任下でビバークをしました。


あちこちでビバークしている人を見かけ、森の中で草を掻き分けて張っている人、山小屋から視認できる場所で堂々と張っている人などまちまちでしたが、明るい時間に張っている人はほとんど見かけませんでした。また、他の登山者や山小屋の人もテント泊については、暗黙の了解としている様であるが、HPやブログで情報を集めると、滅多に無いがレンジャーから警告される場合もあるという記載を見つけたため、事前に情報を集め、自身で判断することが必要です。

なお、ヨーロッパの山小屋は設備や提供される食事も日本の山小屋とは根本的に異なります。清潔で、トイレも綺麗。シャワーも完備されています。もちろんコンセントもあります。また、場所によってはWi-Fiも利用可能です。

山小屋の食事は街のレストランと遜色はありません。昼は注文方式、夜はコース、朝はビュッフェ、お弁当は軽食です。

今回滞在した山小屋での夜はローカルなビアとワインを友人と楽しみました。食事は本当においしく、街の高級レストランで食事をしているのではと思えるぐらいであり、お薦めです。また、イタリアの本場のカプチーノとジェラートは絶品でした。

山小屋では、食事、飲料の他、スイーツも楽しめます。ピンバッジ、ポストカード等、各山小屋でしか買えないオリジナル製品もあります。山小屋に宿泊しない場合でも、ランチやスイーツは味わって欲しいところです。日焼け止めと言った生活用品、そして、靴まで買える場所もありました。

トイレ

トイレは、中国式か洋式。洋式では便座がないタイプもあるため、腰を浮かすか、消毒して座るのが無難だと思います。基本的に水洗であり、綺麗。臭いもほとんどしません。基本的に自由に使えますが、トイレ利用のみの場合は料金が発生する場合もあります(何か購入すれば問題なし)。

ゴミ箱

基本的にゴミは持ち帰りであるが、ゴミ箱が外にある山小屋もあります。また、山小屋で買った物は日本と同様に処分してくれます。

充電スポット

山小屋の外に自由に使える充電スポットがある山小屋もあります。また、山小屋内にある充電スポットも借りられますが、表に無い場合はスタッフに言えば、内部で充電してくれます。充電する時は、何か山小屋で購入することがベターです。なお、充電時は欧州対応プラグ、或いは、USB Type Aが差し込めました。

水について

山小屋が一定間隔であるため、水道から入手、或いは、ミネラルウォーター購入になりますが、比較的容易に水を入手できます。途中で水場、沢、川、湖などがありますが、浄水器による濾過が望ましいです。そのまま飲めない水場については、上記写真の様に飲用不可の記載がありました。また、一箇所のみ、自動販売機(Passo Giau付近のレストラン前)がありました。

天候について

トレイルには基本的には7月~9月がお勧めです。乾燥気候であり、蒸し暑さは雨以外ではありません。基本的には日本の夏と同じような天候と考えて差し支えありませんが、嵐の時は猛烈です。

今回、悪天候時には水が登山道に溢れたり、雷が鳴り響いたり、ゴルフボール大の雹が多数降り注ぎました。また、7月前半頃までは雪が残っている年もありますし、8月でも雪が降るときがあります。9月には積雪している場所もあるかもしれません。このような状況でも対応できる知識や心構え、そして、事前の情報収集が必要だと感じます。

交通手段について

トレイルの起点の最寄りとなるDobbiacoの街までは、ボルツァーノからは電車。空港のあるミラノ或いはベネチアからボルツァーノまではバス或いは電車でアクセスできます。

Dobbiacoから登山口であるPragser Wildsee Lakeまでのバスは、こちらのリンクを参照。Dobbiaco周辺には登山ショップやスーパーが多数ありますが、ガス缶を置いている場所は見当たらなかっため、事前に購入したほうがよいでしょう。また、AV1のルート上には山小屋はありますが、スーパーはありません。山小屋で食事や行動食の購入はできますが、ある程度の食料はDobbiacoで調達することをお勧めします。


AV1のゴールに近いRifugio Furio Bianchet(最終山小屋)には、GoalのLa pissaから、街であるBellunoまでのバスの時刻が小屋内に掲示されているため、確認する必要があります。
Bellunoからベネチアまでは電車でのアクセスが基本ですが、今回Bellunoから一部の区間が電車の不具合で運航休止となりました。私はベネチア付近にホテルを取っていたため、何とかバスで移動しました。Bellunoも素晴らしい街なので、日程にゆとりを持ち、Bellunoで一泊するのも1つの手段かなと思います。

装備・食料について

今回のトレイルで持っていた装備・食料については下記の記事に記載しています。

累計282㎞・12日間のヨーロッパトレイルの装備を公開|WORLDTRAILS 番外編 – .HYAKKEI[ドットヒャッケイ]

今回のトレイルをサポートしてくださった皆様

この旅では、下記のブランド様が物品提供という形でご協力いただきました。
快くご協力くださり誠にありがとうございました。

POLARTEC

POLARTECは、高性能な合成繊維素材を提供する素材メーカ。アウトドアウェアに使用される高品質フリースをはじめとした。保温性、軽量性、速乾性を兼ね揃えた機能性素材を提供している。近年は、環境に優しいリサイクル素材や天然素材も使用している。

Rab

Rab(ラブ)1981年、イギリスでロバート・キャリントンが自宅の屋根裏部屋にて2台のミシンを使って高製品で機能的なダウンや寝袋を作り始めたのがブランドのスタート。世界中の極寒環境やアルパイン登山に特化したハイクオリティーなウェアとスリーピングバッグを主力アイテムに展開。

Outdoor Research

Outdoor Researchは、1981年にロン・グレッグによって設立された、アウトドア用の技術的なアパレルとギアを製造するアメリカの企業です。本社はワシントン州シアトルにあります。この会社は、アルピニズム、ロッククライミング、バックパッキング、パドリング、バックカントリースキーおよびスノーボードなど、多岐にわたるアウトドアスポーツ用品を提供しています​ (Outdoor Research)。

Darntough

ソックスなのに生涯保障。
メリノウールの心地よい履き心地と、耐久性を実現させ、なんとソックスなのに生涯保障を謳った、ウールソックスブランドです。アメリカ、バーモント州ノースフィールドにあるMills(紡績工場)でデザイン、テスト、生産、出荷までを一貫して行っています。

OOFOS

2011年米国・マサチューセッツ州にて誕生したリカバリーシューズブランド。 熟練の靴職人・一流のアスリート選手やトレーナーから構成される、ベテランの開発チームが一丸となって約2.5年の歳月をかけ完成させたのが全く新しいリカバリーサンダル。

Ridge Merino

カルフォルニア、イースタンシエラを拠点に、家族経営でアウトドアを楽しむためのメリノウェアを提供しているブランド。

MOUNTAIN MARTIAL ARTS

トレイルランニングやランニングの持つ魅力を伝え、“機能とデザイン”をコンセプトとするオリジナリティのあるギアやウェアで「アクティビティのある生活の楽しさ」を提案するブランド。

Answer4

革新的なデザインと、機能性が高いウェアやザックを生み出す、トレイルランニング専門ブランド。

山と道

道具を通して、より深くハイキングを知る。ハイキングを通じて感じた、本当に必要な道具を形にしていく山道具のメイカー。

chaoras

CHAORAS チャオラス スポーツてぬぐい 松葉は、登山、トレッキング、トレイル、ランニング、などアウトドアアクティビティにおすすめのてぬぐいです。
アウトドアで使いやすい機能性を採用し、自然に馴染むようなバランスを考えてデザインしました。生地を織ること、縫製、染め、パッケージングまで、全て日本の職人さんの手でつくった日本製です。

Audubon

アメリカの鳥獣保護団体、AUDUBON(オーデュボン)のバードコールです。
金属と木製部分の摩擦により、鳥のさえずりを再現する道具です。100年以上前からアメリカで使われおり、森の中で野鳥を呼び寄せたり、会話することができます。

まとめ

日本とは異なる山塊に圧倒されるイタリアドロミテのトレイルであるAlta Via 1。絶景の数々に出会えました。メジャーなTMBとは違って、人が少ない区間も多いですが、道中の海外ハイカーとの交流も楽しめます。山小屋も充実しており、ルートを正しく選択すれば岩場も避けることができますので、お勧めなトレイルになります。また、ミラノやベネチアからのアクセスになるため、これらの地域への観光と併せて訪問も可能です。

自身が見たことない景色を見にイタリアドロミテを歩いてみませんか? 絶景の連続で、きっと、感動があなたを待っています。 本記事があなたの次の旅の参考になれば幸いです。

なお、インスタグラムでも様々な写真を紹介しております。もし本トレイルに興味があれば、ご連絡いただければ、相談や情報提供もできますので、お気軽にお問い合わせください。

https://www.instagram.com/yuki_a73_mountain/

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ライター:
芦塚 勇樹