「いつかは海外の山に行ってみたい」そう思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回はヨーロッパの名峰、モンブランとマッターホルンを繋ぐ山岳ロングトレイル「 The Walkerʼs Haute Route」(オートルート)を歩く芦塚さんにインタビューしました。挑戦前と挑戦後の二部に分けてお届けします。
今回は前編(挑戦前)です。
――まずは自己紹介をお願いします。
芦塚勇樹といいます。
普段は会社員として製薬会社の事業開発部に所属しています。事業開発部へ異動する前は、自社の薬の研究開発をしていました。
現在はその経験を活かして、将来的な患者さんのニーズに応え、会社の事業戦略にも合致する開発品がないか等の視点で、国内外の他社や大学・公的研究機関の研究プロジェクトや開発品をサイエンス視点で検討。有望なモノがあれば、会社へ共同開発や導入提案する仕事などをしています。
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――ありがとうございます。お休みの日はどんな山に登っているんですか?
夏は北アルプスや南アルプスによく登っています。その中でも稜線が美しい山、登っていてワクワクする山が特に好きです。
金曜日の夜に自宅のある京都から車で出発し、登山口の駐車場で1〜3時間仮眠した後に登山を開始して、日曜日に下山。その後、車で京都まで戻ることが多いです。夏の間は、晴れていれば毎週この生活ですね。特に長期縦走が好きなので、夏休みに南アルプスを8日間、北アルプスを2週間くらいかけて歩いたこともあります。
ほかのシーズンは、九州、関西、北海道の山々にも登っています。
――かなりハードですね。それでは今回歩くコースを教えてもらえますか?
フランスのシャモニーとスイス・ツェルマットを結ぶヨーロッパの山岳ロングトレイルである「オートルート」を2週間くらいかけて歩きます。シャモニーはモンブラン、ツェルマットはマッターホルンで有名な登山口です。
総距離は約200km。最大の標高は3000m程度ですが、登りと降りを合わせた累積標高差は20km以上にも及びます。オートルートは、基本的なルートはありますが、公式のルートがないので、自由に道を選ぶことができます。
リフトや交通機関を使ってルートを短縮することも可能ですが、今回は絶景を眺められるルートを徒歩のみで移動することにしました。その結果、総距離約230kmになりそうです。
オートルートでは、ヨーロッパアルプスをはじめとしたさまざまな山群や氷河などを眺めることができますし、運が良ければマーモットやアイベックスなどの動物が出迎えてくれる可能性もあります。また、時期を選べば、美しいお花畑も広がっています。
――なぜオートルートを選んだのですか?
『ワールド・トレイルズ(世界は歩いてみたい「道」にあふれている)』という本を読んだことがきっかけです。その本では世界中のいろいろなトレイルルートが紹介されているんです。
その中で初めに興味を持ったのが、今回行くヨーロッパのオートルートとアメリカのジョン・ミューア・トレイルでした。ジョン・ミューア・トレイルもとても有名で魅力溢れるルートなのですが、多くの日本人が既にチャレンジしています。そのため今回は人が少なく静かで、絶景も眺められる、オートルートを選択しました。
――挑戦者が少ないルートを歩きたかったんですね。それでは今回の持ち物を教えてもらえますか?
テントやシュラフ、コンロなど通常のテント泊装備に加えて、スマホなどを充電するためのソーラーパネルや水を濾過するための浄水器などを持っていきます。
ヨーロッパには「エキノコックス」という寄生虫などがいるようですし、牛や羊の糞尿が川や沢の水に混じっていることも多いそうなので、飲用可の水を除いて、そのまま飲むことは避けたいからです。
また、ルート上に雪渓が残っている、氷河を通過する、あるいは雪が降る可能性も考慮して、アイゼンやピッケルも持って行く予定です。単独での縦走になりますので、トラブルや悪天候も想定して、万全の装備で挑むことにしています。
芦塚さんのオートルートで使用した全ギアリストを公開!
芦塚さんのオートルートで使用した全ウェアリストを公開!
――食料はどのようなものを持っていくんですか?
約2週間分の食料を持参するので、必要なエネルギーを考慮した上で、軽いものにしようと考えています。朝、昼はカロリーメイトのような固形食やミックスナッツなど、夜はアルファ米などを食べる予定です。
たんぱく質をとるためにビーフジャーキーなどの乾燥肉も行動食用に現地で買う予定です。たんぱく質については自分の体重をベースに1日の必要量の1.3倍量を摂取できるようにします。またキャンプ場付近にスーパーがあれば、お肉やチーズ、野菜やフルーツなども調達できたらと思っています。
あとは縦走中の食事は栄養が偏って栄養不足に陥る可能性もあるので、サプリメントでビタミン、ミネラル、食物繊維も1日の必要量以上摂取する予定です。
ほかにもアミノ酸サプリ、MCTオイルも持って行きます。なお、お湯を沸かすためのガス缶は、飛行機では運べないため、現地で調達します。
芦塚さんのオートルートで使用した全食料リストを公開
――綿密な計画ですね。オートルートを歩くにあたって何かトレーニングはされていますか?
継続的な登山に加えて、普段からランニングなどもしているので、今回のために特別なトレーニングはしていません。ただ以前、長期縦走終了後に著しく体重が減少したことがあったので、今回はマラソン前のカーボローディング(マラソン3日前から炭水化物の摂取量割合を増やし、マラソンのためのエネルギーを体内に蓄積すること)を参考に、登山の1ヶ月前から意図的に脂肪や体重を増やしています。
その状態で現地に行くと、摂取するカロリーが不足しても、体内の脂肪などをエネルギーに変換できると見込んでいます。また、MCTオイルを恒常的に摂取することで、脂質をエネルギーとして利用しやすくなるんです。
――そういった準備の中で大変だったことはありますか?
実際に歩くルートや宿泊場所、水や食料調達などに関する情報入手に苦労しました。
特に大変だったのは登山ルートをGPSアプリで作ること。日本で普及しているヤマレコやYAMAPなどのGPSアプリは、海外ではそのまま利用できません。
そのため、ほかのGPSアプリも含めて複数検討し、登山ルートを作成しようと試みました。しかし最初は、自身でマップ上のポイントを1つずつ探して線で繋いで登山ルートを作成するアプリしか見つけられませんでした。
その後、欧州などでよく登山されている方に「Komoot」というアプリを教えて頂きました。このGPSアプリは、ヤマレコやYAMAP感覚で、比較的簡単に登山計画を立てられ、行動中の登山計画変更時にも容易にルート変更が可能です。また、現在の自分の位置情報も家族などがライブ追跡できることなどから、最終的には「Komoot」を使用することにしました。
万が一、救助されることになった場合の保険や通信手段を確保するためのSIMの選定も迷いましたが、最終的にUbigiというeSimを選定しました。
理由はヨーロッパ複数国で使用でき、ネットで申し込んだ後、即利用可能だったからです。さらに日本語対応、容量不足時の追加しやすさも魅力的でした。
――海外登山の場合、保険は登山用の保険になるのでしょうか?
特殊な山の保険が必要になるのは、アイゼンやピッケルなどの装備が必要な場合やクライミングを行う場合などです。一般登山道であれば、基本的には通常の海外旅行用の保険でカバーできます。特にスイスでは遭難や怪我などで救助されると救助費用等が自己負担になり、そうなると1回1,500~2,000万円の費用が必要になる場合があるんです。
クレジットカードにも海外旅行保険が付帯している場合がありますが、万が一、救助された場合にカバーできないので、別途、海外旅行保険に加入することにしました。
今回は、ネットで加入できる三井住友海上のネットde保険@とらベルを選定しました。
――ありがとうございます!最後に意気込みをお願いします
私は自身が経験したことのない道を長時間歩き、ようやく辿り着いた場所でしか見れない絶景を見るのが好きです。今回は、初めての海外登山、かつ単独での挑戦になりますので不安はありますが、ヨーロッパならではの景色を楽しみにすると共に、カメラでも写真に納めたいと思います。帰国後は、その絶景もみなさんへお届けしたいです。
山の天候や気温は目まぐるしく変わるため、長期間の山行で特に重要となるのが服装です。速乾性、通気性、防水性、防風性、保温性、防臭性、重量などに配慮して選ばなければなりません。今回はフリースの生みの親としても有名なメーカー「POLARTEC」の素材を使ったアイテムを持って行ってもらいました。
パワーウールは速乾性のあるポリエステルと防臭性、保温性のあるウールの両方を配合した素材です。汗を早く乾かし、匂いがつきにくく、濡れても身体を冷やしません。
パワードライは両面別々の編み糸を使った二重ニット構造が特徴の素材です。通気性がよく、熱がこもりにくいので、汗もかきにくいです。かいた汗は素早く吸って素早く乾かします。
パワーグリッドは保温性と通気性を兼ね備えた素材です。止まっているときは温かく、行動しているときは熱がこもりにくく、ムレを防いでくれます。
ネオシェルはレインウェアとしての防水性を備えながら、通気性、耐摩耗性、伸縮性も兼ね備えた素材です。ゴワゴワ感がなく、動いてもムレません。
アルファダイレクトを使用した超軽量のアクティブインサレーションタイツ。濡れても保温性が低下せずにすぐに乾きます。
パワーストレッチプロは、伸縮性素材の性能を高めるために開発され、高い保温性と伸縮性に加え、吸湿発散や耐久性を兼ね備えている、肌ざわりの良い素材です。
トレイルランニングやランニングの持つ魅力を伝え、“機能とデザイン”をコンセプトとするオリジナリティのあるギアやウェアで「アクティビティのある生活の楽しさ」を提案するブランド。
革新的なデザインと、機能性が高いウェアやザックを生み出す、トレイルランニング専門ブランド。
道具を通して、より深くハイキングを知る。ハイキングを通じて感じた、本当に必要な道具を形にしていく山道具のメイカー。
POLARTEC®
1906年にアメリカ・マサチューセッツ州で創業した老舗ファブリックメーカー。登山やトレイルランニングなどの本格的なアウトドアはもちろん、キャンプやタウンユースでも重宝する快適な着心地の素材を多く開発・展開してきたメーカーとして知られている。