自然を楽しんでいる方々にそのきっかけや楽しみ方をたずねるインタビュー企画『自然ビト』の第2弾。
今回は週前半を東京都内で働き、後半を八ヶ岳の山麓で生活するハイブリッドなライフスタイルを送る、.HYAKKEIのライター津田賀央さんです。
■津田賀央さん(37歳)プロフィール Route Design合同会社 代表、長野県諏訪郡富士見町在住。広告会社勤務後、デザイナー・UXプランナーとしてソニー㈱へ移り、現在に至る。
山好きが高じて、現在の仕事を続けながら、八ヶ岳の麓、長野県の富士見町へ移住し会社を設立。
現在は週の3日は東京・品川に通い、残りの日は富士見町で仕事をするという生活スタイルを続けている。
また、昨年末に富士見町にオープンしたシェアオフィス/コワーキングスペース施設「富士見 森のオフィス」のプロデュース/運営管理も行っている。
「富士見 森のオフィス」facebook page
https://www.facebook.com/morinooffice/
ワシントン州シアトルでの体験、そして記憶
−津田さんと言うと、こうして八ヶ岳の麓で暮らされていて生粋のアウトドア好きなイメージを勝手ながら思っています。
津田さん(以降、津田):実は10代・20代ってほぼ自然に触れていなかったんですよ。
—え!?そうなんですか?
津田:はい。僕は帰国子女で中学3年生の終わりくらいに日本に戻ってきたんです。それからは音楽とか映像作りが好きだったんでそちらの方ばかりで。
—小さい頃はどちらにいらっしゃったんですか?
津田:アメリカのワシントン州です。
シアトルの郊外にあるレドモンドという街ですね。
今となってはオシャレなイメージもあるかもしれないですが、当時はスターバックスも人気ではなかったですし、雨が多い緑豊かな地方都市でした。
自分が自然に触れるきっかけはどこだったのか、という記憶の深いところを辿るとこのシアトル暮らしだったと思います。
—そのあたり是非教えてください。
津田:すごく衝撃的で今でも覚えているのが、日本からシアトルに飛行機で到着するときの景色です。
その時見たのが果てしなく続く森と、その先にそびえ立っているカスケード山脈やロッキー山脈だったんですね。この時のカルチャーショックみたいなものはすごかったです。
津田:シアトルでの暮らしは、日本の地方暮らしと大きな差はないと思うんですが、近くの裏山とかで遊ぶしかなかったんですね。マウンテンバイクを乗り回して。
あとはピクニック行ったりキャンプに行ったり、マウントレイニアっていう山が国立公園でそこを歩いたりとか。小さい頃ってそういうところに行くと「どこまでも行ける!」って思いますし怖いもの知らずだったので、夢中で自然の中に飛び込んでましたよ(笑)
そういうことやっていたんで、自然の中、森の中、自分でどこまでも行くっていう感覚がすごく好きでした。
—確かにそれまでの日本での生活とは一変してそうですね。
津田:不思議なことに小学1年と2年の時の記憶が無いですからね、ショック過ぎて。
もちろん英語が話せないのにどうしようとか色々な要因はあったんでしょうが、先ほど申し上げたシアトルに着いた時の衝撃が大きかったんじゃないかなって思っています。
—日本に戻ってきて自然に離れてから、こうしてまた自然と触れ合うことになったのは何故なんですか?
津田:20代後半になってからインドアスポーツとしてのボルダリングをやったり、あとは音楽が好きだったんで夏フェスに行ったり、フジロックはテント泊でしたしね。
そういったことをしていると、ふと子供の頃の記憶が思い出されたんです。
あとは結婚して、妻の母親が超アルピニストでして、僕の母親もワンダーフォーゲル部だったので。
そうやって教えてもらえる先生たちがいたので、指導を受けながらまた自然に触れていきました。
津田:小さい頃に見たワシントン州の山の風景に似たものを見ると今でも懐かしく思いますし、ここ八ヶ岳の麓である富士見町を選んだのもそれに通ずるものがあったんですね。森が広がっていて抜けが良くて八ヶ岳が見える、という風景がワシントン州の風景に似ていて。
—ボルダリングは単に遊びとして、ですか?
津田:そうですね。
でも、自然と体のことも考えますし体と向き合うことになるんですよ。
もともと空手やっていたんですが、ただ殴る蹴るじゃないんですよね、自分との戦いというか。そういうのが好きなんだと思います、自分と向き合うことが。
ボルダリングも体軽くしなきゃいけないですし、そうするとこれまでの生活を改めないといけなくなって。そこから健康的な方面へ志向が移っていきますよね。
−幼少期の体験や記憶がベースとして影響してそうですね。
津田:そうしてくうちに、20代後半から30代にかけて、シアトルの頃の記憶が強く思い出されてきたんです。今こうして山麓生活をしているのも、そういった経験が影響しているのかもしれません。
心と体、自分と向き合う時間
—お聞きしていると体を動かす、ということ自体がお好きなんでしょうか?
津田:そういうわけでもないかもしれません。スポーツ万能でもないですから。
ただ、自然の中に身を置いて自分の感覚や体を確認したり、あとは山登っていると自分が抱えている課題などが出てきて。山の中って全く守られていない状態で下手したら命の危険もあるわけですが、そういった状態で色々と考えるのが好きなんでしょう。
そして下山した時には何となく気分が晴れている感覚があります。
—ある種、自分と向き合うために、といったことでしょうか?
津田:そうですね。
でもそれって別に山の中じゃなくてもできるわけですが、山だと体を動かしながらになるんで、考えがポジティブになれるんですよね。それも大きいと思います。都会では得られない感覚を得に行ったり。
—シアトルの頃ってまだ子供だったわけで、その時の登山体験と、大人になってからの登山体験ってけっこうギャップがあるというか。
大人になってからの方が大変だったり辛い思いをすることも多かったんじゃないかと思うんですが、幼い頃の記憶と大人になってからの体験で悪いギャップを感じるようなことはなかったんですか?
津田:それは大人になって山を教えてもらったプロセスが良かったのかもしれません。
順を追ってというか、レベルや成長に応じて山を選んでくれたので、いきなり無茶なことはしませんでしたからね。
眺望だけでなくプロセスを楽しむ
—お話をうかがってると山の高低などはさほど気にされないんでしょうか?好きな山のポイントや津田さん自身の登山の楽しみ方って何かありますか?
津田:そうですね、一番好きな山が山梨県の乾徳山なんです。ここは森もあれば、広大な草原もあるし、岩場もあって最後は絶壁という(笑)それが2時間半で楽しめるんです。日帰りで行けちゃいますからね。
—眺望重視というわけではないんですね。
津田:眺望も大事ですが、それまでのプロセスの方が大事ですね、私の場合は曇りでも構わないですから。
人によっては眺望良くなくても、そこを踏むこと自体が大事だって方もいますし、同じ山は登らないっていう方もいますよね。私は好きな山はいくらでも登りたいですし、今年もここ登っておかないと駄目だって思うこともあります。
山麓生活で感じる、心と体の変化
—今こうして常に自然に囲まれている環境で暮らされていますが、それによって変わったこと、良かったなと思う事ってありますか?
津田:よく言われていますが、体は変わりましたね。
空気・水・食べ物が良いだけで、ここまで体とメンタルが良くなるのかと思いました。これは想像以上です。
都会を否定するわけでもないですし好きですが、都会で暮らしていると実は体に負荷がかかっているんだなって感じました。こちらの暮らしって、ストレスレベルが低くて空気が綺麗。それだけでやっぱり楽なんですよね。食事も野菜中心ですし。
津田:あとはノイズがない。
とにかく静かですから睡眠のレベルが違います、熟睡できますよ。都会暮らしでも気にはしてなかったつもりですが分からないところでノイズってあるんだなぁって感じます。
—今ってこちらに移ってからどのくらい経ちましたか?そういうことを感じ始めたのって最近なんでしょうか?
津田:移ってきてから半年程度ですが、感じ始めたのは2〜3か月経ったくらいからですね。
ー早いですね!しかも津田さんの場合、週の前半は引き続き都会暮らしなわけで、それでも心と体の変化を感じるんですか。
津田:都会暮らしも同時にしてるからこそ、ギャップがあるのでより感じると思いますよ。
こちらに戻ってくる木曜日とかすごく疲れてますし、都会にいる方が風邪を引きやすいです。風邪の菌をもらいやすいですね。寒いのは明らかにこちらなんで、風邪を引くのって寒いからじゃなくて菌がたくさんいるからなんだって気付きました。
身近にあっても見るだけでなく、登りたい
−最近のアウトドアブームって、がっつり登山とかではなく、アウトドアをライフスタイルに取り入れる動きが増えていると思っているんですが、津田さんの場合はすぐ近くが山に囲まれているのでまさにライフスタイル寄りな考えでいらっしゃいますか?
津田:もちろんライフスタイルとしてもそうなんですが、だからといって本格的な山に登らないかっていうとそうではないですね。
近くに住むのと山に入るのとでは違うなって感じます。風景として見られるようになったことも嬉しいですが、登っている時の感覚とはまた全然違うので、やっぱり登りたいですよ。
先ほどもありましたが、自分と向き合う意味でも必要ですからね。
今この環境になったことで、ライフスタイルとしてはかなり取り入れることができましたが、次はより身近になったわけなのでもっと登山をしたいなって思っています。
—ご家族と一緒に登ることも?
津田:ありますよ、どうしても子供だと登るスピードが遅くなってしまうので、子供たちを連れて中腹の山小屋までランチを食べに行きます、登頂はせずに。あれは良いですよ。
—それはこの生活ならではで素敵ですね!
津田:登りたいという話で言うと、八ヶ岳を縦走したいなって思っています。今はまだバタバタしているので落ち着いたら頑張りたいですね。
津田さんのこれまでの記事はこちら!
子供の頃のシアトルへの衝撃とそこでの暮らし。
その頃の記憶を思い出し、30代になって都心と山麓生活を両立している津田さん。
そんな貴重な経験によって感じたことを毎月記事にして頂いています。
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