Answer4が高尾から発信するトレイルランニングガレージブランドの存在価値とは。

ウルトラライトハイキングのガレージブランドはここ数年でずいぶん増えましたが、トレイルランニングに特化したブランドはめずらしい。自身もトレイルランナーである小林大允さんがたったひとりで立ち上げたブランド「Answer4」が高尾で作るコミュニティと目指すブランドのカタチを聞きました。

ないなら自分で作ってみよう

最初は、欲しいと思えるものがなかったから自分のために作った―。そんな風に語る小林さん。元々、広告代理店でデザインや営業の仕事をしていましたが、仲間と始めたトレイルランニングにみるみるハマっていきます。

世界的なトレイルランニングレースUTMB出場が決まった時、レースで使うトレランザックを探したものの、これというものが見つかりません。“ないなら自分で作ってみよう”。これが仲間内で話題になり、ついには会社を辞め、使ったこともないミシンを通販で買い、毎夜ミシンを踏むきっかけを作ったフラッグシップモデル「Focus ultra」です。

Answer4のアイコンFocusシリーズ。初めて作った時からほぼ変わっていないというから完成度の高さがうかがえる

今では手に入らないと嘆く人がいるほど人気のブランドとなったAnswer4。

2018年から拠点を高尾に移し、実店舗をオープンしました。都会から少し離れた高尾。そこで活動する理由とコミュニティづくりの秘密を伺いました。

山麓で展開する、トレイルランナーのためのエイドステーション

トレイルランニングを楽しむ人をメインターゲットとしながらも、個性的なプロダクトや、ハローキティ、ドラエもん、人気イラストレーターなどとのコラボレーションがハイカーにも支持されているAnswer4。

提供写真:“Ribbon”Tshirt

ブランド立ち上げから瞬く間に人気ブランドとなりました。国内約7店、海外5店の計12店舗という限られた卸先のみで展開しているため、手に入りづらいほど。各店舗に全商品がラインナップされているわけではないので、実物を手に取れる機会も多くありません。

「うち、売上のほとんどがWEBなんです。やっぱり実物を見たいという声もあって、直営店を作ろうと思ったんです。」

以前は都心、その後西八王子に住んでいた小林さんは、山を走るなら専ら高尾。仲間も高尾界隈に住んでいたこともあり、開店場所は高尾の麓を選びました。お店の名前は、Living Dead Aid。

ビビッドなブルーの壁面には、小林さん自身がデザインした商品の数々が並ぶ

「エイド(Aid)というのは、トレイルランニングレースでレース中に食料や飲み物を補給できる場所(Aid Station)のことです。トレイルランニング、特にウルトラのカテゴリーになると、過酷な状況下で、山のなかを生きているか死んでいるかよくわからないような感じになるんですよ(笑)エイドは、“フラフラで走っている人”が辿り着く場所。それとお酒で酩酊してフラフラな状態の2つの意味にかけたんですよ」

トレイルランニングブランドの直営店ながら、店内には商品が並ぶラックと対面するように大きな冷蔵庫が鎮座。中にはびっしりと珍しいビールの数々が並んでいるのです。

酒屋と見間違うほどの、立派なショーケース。わざわざ酒販免許を取得した

「直営店を作るにしても、ただ商品を置いているだけじゃ「芸」がないなと思って。他のブランドが絶対できないだろうと考えて、クラフトビールの販売をすることにしたんですよ。」

店内のショーケースには、国内でも類を見ないラインナップが並んでいて、ビールのインポーターさんも「ここまで充実しているのはすごい」と太鼓判を押すほど。奥多摩山麓の人気ブルワリー、バテレの商品もあります。その総数は、全部で50種類。近隣の方が酒屋替わりにビールだけを買いに来るほどです。登山をしないビールマニアまでも惹きつけているのです。

「価格も抑えめにしています。クラフトビールは高いですからね。ボトルショップのようにビールの販売で生計を立てているわけではなく、あくまでLDAを知ってもらう、空間を楽しんでもらうためのものなのでいいんです!登山をしない人がLDAをきっかけに山をやるようになったら、それはそれで面白いですよね」

流行のカルチャー、クラフトビール。世界で人気のクラフトビールメーカー、Mikkellerのフェスにも協賛したりTシャツを作ったりと、他の人気カルチャーとの融合にも積極的であることが、トレイルランナーだけに限らず幅広いファン層拡大のきっかけになっているのかもしれません。

Answer4の発信力を加速させる、ブランドを取り巻くコミュニティ

フィールドで試して本当に必要なものを作ることが強み、と語る小林さん。日頃から南高尾周辺や初沢山などにふらりと走りに行っては、アイディアを練る日々。自分自身がトレイルランナーであり、100mile(160km)などのロングレースの完走経験もあるプレイヤーであり、開発者であり、ブランドオーナーでもあるのです。

自立するOSFA Shellは、遠征時やサポート時の荷物の出し入れがノンストレス。プレイヤーならではの視点だ

また、世界で活躍する有力選手をサポートし、彼らにも新商品のフォードバックやアイディアをもらい、プロダクトに活かします。決して大きくないブランドにとって、売上に直結しにくい活動に予算を割くのは容易ではないはず。ガレージブランドがサポート選手を抱え、チームづくりをすることもめずらしく、思い切った取り組みです。

「選手へのサポートのほか、ランニングクラブも主催しています。LIVING DEAD AID RUNNING CLUBはサポート選手をコーチ陣に迎え、高尾山域を拠点に週次、月次で練習をするチームです。12ヶ月間で、皆で強くなり、なにより楽しむ。もう4期目になります。」

ハイカーが少ないマイナーなルートや林道などで行われる練習会。小林さんも参加するそうですが、とにかくキツイ!と笑います。けれど練習後はLDAで乾杯して盛り上がるなど、リピーターも多いそう。

高尾の山を守ることとマナーUPは、ブランドとしての使命

毎月、公式インスタグラムにおもむろにアップされるゴミを拾う姿。高尾に拠点を移してから最初に始めたのはゴミ拾いでした。平日午前中に実施されており、場所は主に最も登山者の多い一号路。SNSで告知し、集まった人達と一緒に山に落ちているゴミを拾う活動で、もう3年だそうです。

提供写真:Answe4 instagramより

「毎月毎月やって、もう40回くらいだと思います。毎月やっても、ゴミはまだまだあります。年間260万人以上登る山と言われているので、意図せずポケットから落ちたアメの袋から、明らかに故意に捨てたものまで様々ですね。無くならないんですよね」

親子連れ、カップル、観光客。登山客だけでなく様々な人が集まる高尾山。東京の山のなかでも手軽なイメージがあるからか、ゴミ問題以外にもいろんなマナーが問題視されています。そのなかのひとつに、ランナーのマナー問題もあります。登山道ですれ違う時に立ち止まらず減速もせずに、走り抜けてしまう人がいるのです。そんなロードランナー・トレイルランナーのマナーアップにもAnswer4は取り組んでいます。

「高尾に拠点を置いているブランドとして、トレイルランナー問題をなんとかしたいと思い、マナーブックを作りました。メンバーは、トレイルランニングショップRunboys!Rungirls!の桑原さん、雑誌Tarzanの編集内坂さんと3人です。みんなマナーを知らないだけだと思うんです。皇居ランの時は、すれ違いで立ち止まったり挨拶したりしないので、同じ感覚で山を走るけど、それは山ではマナー違反とされる。誰からも教わることがないから知らないだけ。それを伝えるのがブランドの役割だと思うんです。トレイルランナーという括りに限らず、ハイカーでもちょっと下りに小走りしてみたらそれはトレイルランナーかと言われれば難しい線引きですが、とにかく走る時、すれ違う時は歩きましょうというのがまずは最初の大切な指針です。」

デザインは人気イラストレーター、Jelly Ukaiさん。可愛いイラストと共に山でのマナーとルールが記載されている。タイトルが伝わりやすい!

マナーがイラストと共に描かれたブックの裏は、ルートマップになっているのも魅力的。高尾山域の地図がもらえるなら欲しくなります。紙は登山地図と同じ素材で作られていて、耐水性がありルートマップとしても申し分のない作り。

「トレイルランニングを始めたばかりの人には、どこに人が多くて、どんなルートがあるのかわからない。高尾エリアには探せば面白いところがたくさんあるんです。7つのルートは混雑する場所を避けてあります。マナーを伝えるのが一番の目的ですが、マップになっているなら、持ち帰りたくなるし取っておきたくなりますよね。それに、コースの選択肢が増えると、混雑した場所からトレイルランナーが分散して、ハイカーさんとのすみわけもできますし。」

これが無料で配布されているのか、と驚くような詳しいマップ。見ているだけもワクワクしてくる

高尾山口の駅前で、トレイルランナーっぽい人に向けて手配りしているのだそう。八王子市役所も後援し、京王電鉄や高尾登山鉄道もバックアップしてくれています。地元の理解・協力を得て活動する。自分達の持ち出しで作って、自分達で駅前に立って配り、呼びかける。そんな草の根活動をどうしてそこまでできるのでしょうか。

「僕らは、東京に拠点を置くブランドのひとつです。高尾山は、その東京で最も登山者の多い山です。むしろ、今までなんで他のブランドがやってこなかったのかと思うんです。モノを売るのって簡単じゃないですか。ミシンを踏めば誰だってガレージブランド。誰でも始められる。でもそれだけじゃなくてブランドの存在価値と姿勢をいかに示していくかが大事だと思うんです」

広告代理店時代に、ひとつの商品をいかに良く魅せるかが仕事だったという小林さん。大手の戦略にいかに勝つか考えてきた経験から、地道な啓蒙活動をすることは、ブランドをやっていく上で当然のことだと言います。

自身の考えるブランドの在り方を着実に体現していく

「商品を作る・売るだけではなく、高尾に拠点を置いているからこそ高尾で走れなくなるなんてことにならないように、ずっと続けていきたいですね」

上司の決裁とか関係ないからできるんですけどね!と冗談めかして笑うものの、マナーUPの啓蒙活動は、ブランドを立ち上げて高尾に引っ越してきてからずっとやりたいと思っていたことがやっと実現できたたのだと語っていました。Answer4の熱いファン層やブランドを支持する人が多いのは、他にない個性的なプロダクトやデザインはもちろんのこと、居心地の良いコミュニィや山を愛する活動と想いが伝わっているからではないでしょうか。

上司の決裁とか関係ないからできるんですけどね!と冗談めかして笑うものの、マナーUPの啓蒙活動は、ブランドを立ち上げて高尾に引っ越してきてからずっとやりたいと思っていたことがやっと実現できたたのだと語っていました。Answer4の熱いファン層やブランドを支持する人が多いのは、他にない個性的なプロダクトやデザインはもちろんのこと、居心地の良いコミュニィや山を愛する活動と想いが伝わっているからではないでしょうか。

人気ブランドAnswer4の在り方に、私たちが山と向き合う姿勢のヒントをもらったような気がします。

Answer4
WEB SHOP: https://answer-4.com/
店舗:東京都八王子市初沢町1231-17-302
営業時間:12時~18時
不定休:店舗カレンダーを確認してからお越しください。
Instagram:https://www.instagram.com/answer_4/
Facebook:https://www.facebook.com/Answer4-718127471587911/

(写真:茂田羽生

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ライター:
中島 英摩:Emma Nakajima