紅葉のシーズンが進むと、紅く色付いた木花の覆う山はもちろんだけれど、黄金色に輝くススキの群生する山のことをよく思い出している。風に波打つ波紋のごときススキのウェーブが、どこまでも続く山肌をサワサワと吹き流れていくイメージがすぐに浮かぶのだ。そんなとき、ああ、あの道をまた歩きたいなあと、デスクのカレンダーをめくる。
たとえば伊豆半島の三筋山は、そこに佇むだけで気分が高まる「金色の野」が広がっていて、相模灘沖の伊豆大島と半島を代表する名山・天城山があまりに広大であり、歩いて飽きない見て飽きない、気晴らしに打ってつけの山だと思うのだ。ゴールデントレイルとは大げさなこと言った感満載だけれど、本当に金色の道が歩けるのだから仕方がない。
三筋山頂の直下には、細野高原と桃野湿原が広がっている。秋のすすきイベントが有名な細野高原という名称で、一般には知られているかもしれない。ハイカーならずとも観光で訪れる人が多い山でもあるのだ。
細野高原の駐車場まで車で来てしまうと、あとは舗装された遊歩道を散策するだけで山頂に着いてしまう。山登りとしては相当にライト過ぎるから、伊豆稲取駅から坂道を登り上げるか、天城峠・八丁池方面から歩いて行く手もあるよと言っておこう。
広い湿原に点在する池塘が、蒼く晴れ渡った大空を鏡のごとく映し出す。凪いだススキ野を午後の太陽が黄色く照らし、そこにフワリと風が吹いて、たちまち黄金のウェーブが巻き起こる。大地の“仕掛け”に感動しながら歩いていると、やがて山上に立ち並ぶ風車のグワングワンと回転する音が耳に届きはじめる。音が大きくなるたびに、間近に迫る山頂に期待が膨らみワクワクしてくるのだ。
三筋山の山頂は草原のように広く、それでいて展望も大きくて最高である。天城山の山並みは見事で、相模灘に目を移すと伊豆大島が海に浮かんでいるのがわかるだろう。海上に靄があれば、まるで巨大な陸地がふっと出現したかのようで、とても幻想的に感じる。
この道を歩くなら、個人的には晩秋か初冬の午後が好みだ。すすきイベントも終わり、静かな時間を過ごせる。黄昏る時間になるとススキはますます黄金色を強め、どこか別の世界にでも来てしまったのではないかと錯覚させるほどの輝きを放つ。そんな別世界を、ぜひ味わってみてほしい。
そうそう、麓の海岸線には伊豆を代表する温泉のひとつ、稲取温泉がある。一般的に海岸に近いところでは、穏やかな日中の海風が山から吹き下ろす山風に変化する、その狭間の凪いだ瞬間のことを「夕凪」と呼ぶ。そんな穏やかな瞬間を狙って、海を眺める展望風呂に浸かり、冷えた身体を温めるのもよいだろう。
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